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BCP(事業継続計画)は、作ったあとに訓練で確かめて、はじめて使える計画に近づきます。ただ、避難訓練は毎年行っていても、計画に書いた判断や手順が本当に使えるかを確かめる訓練は、まだ行っていないという会社もあるかもしれません。
BCPの訓練には決まった形はありませんが、最初の一歩として取り組みやすいのが机上訓練です。会議室に集まり、災害が起きた想定の状況を順に示して、班ごとに「このとき、どうするか」を話し合います。準備の手順さえ押さえれば、特別な設備がなくても始められます。
この記事では、内閣府の事業継続ガイドラインと、高知県が事業者向けに作った机上訓練のマニュアルをもとに、机上訓練の準備から当日の進め方、終わったあとの報告書のまとめ方までを、担当者が行う順に整理します。
この記事でわかることは、次の5点です。
- BCPの訓練と避難訓練の違い
- BCPの訓練を年に何回行えばよいか
- 机上訓練の準備と、シナリオ・設問の作り方
- 当日の進め方と、司会・事務局の役割
- 終わったあとのアンケートと報告書、計画への反映
BCPの訓練とは|避難訓練とどこが違うか
BCPの訓練は、災害などが起きたときに、計画に沿って事業を続けたり早く再開したりできるかを確かめるための訓練です。内閣府(防災担当)の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、訓練の目的として、主に次の3つを挙げています。
- 知識として知っていること(安否確認、バックアップの切り替えなど)を実際に体験し、体で覚える
- 手順にできないこと(経営者の判断や想定外への対応)について、判断する力を鍛える
- BCPやマニュアルの弱いところや問題点を洗い出す
避難訓練も大切な訓練ですが、同じ動作を繰り返して身に付ける「反復訓練」の一つとして整理されています。BCPの訓練では、避難したあとに誰が何を判断し、どの業務をいつ再開するかまで扱うのが違いです。
計画を社内のページに載せて周知するだけで、全員が動けるようになるとは考えにくい、ともされています。いざというときに計画書を読み込む時間はないことが多いため、計画を知っている人を前もって育てておくのも、訓練の役目です。
BCPの訓練は年に何回?|一般の会社に決まった回数はない
一般の会社のBCPの訓練には、何回行うという決まった回数はありません。内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)が示しているのは、定期的(年次など)に行うことと、体制の変更や人事異動、採用などで人が大きく入れ替わったとき、BCPを見直したときにも行うことです。
そのため、まずは年に1回、日を決めて行い、人の入れ替わりが多い時期や計画を直したあとに追加する、という組み方が考えやすいでしょう。訓練の時期や対象者、やり方は、年間の「教育・訓練の実施計画」として先に決めておくことが勧められています。
介護や障害福祉の事業所は、運営の基準で研修と訓練の回数が定められています。介護BCPで求められる3つの柱|研修・訓練の回数とひな形の使い方と、障害福祉サービスのBCP|義務の根拠と研修・訓練の回数、未策定減算で、それぞれ整理しています。どんなときに計画と訓練を見直すかは、BCPの見直しはいつ・何をきっかけに?公的ガイドラインが挙げる引き金で扱っています。
訓練の種類|まずは机上訓練から
BCPの訓練にはいくつかのやり方があります。高知県の『机上型事業継続訓練マニュアル』(平成26年3月)と、内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)が挙げるものを、会社全体で行う訓練に絞ると、おおむね次のように分けられます。
| 種類 | やること | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 読み合わせ(ウォークスルー) | 計画書や手順書を、役割分担や手順に沿って机の上で順に確かめる | 計画の中身を覚えてもらいたいとき。短い時間・少ない準備でできるが、難しくはしにくい |
| 机上訓練 | 想定の状況を順に示し、班ごとに設問を話し合って発表する | 初めての訓練から計画の確かめまで。目的に合わせて難しさを変えられるが、実際に体は動かさない |
| 反復訓練(ドリル) | 避難、消火、対策本部の設営、バックアップの切り替えなどを実際に行う | 決めた手順を体で覚えたいとき |
| リアルタイム型・総合演習 | 部署ごとに状況が時間に沿って届き、本番に近い形で判断や移動まで行う | 机上訓練に慣れたあと。シナリオづくりの手間が大きい |
このほか、取引先や同業他社と一緒に行う連携訓練や、休んだ人の業務を代われるよう互いの業務を覚えるクロストレーニングもあります。
初めて行うなら、机上訓練から始めるのが取り組みやすい方法です。会議室と資料があればでき、話し合いの中で計画の抜けや、部署ごとの考え方の違いが見えてきます。
机上訓練の準備|目的・人・被災状況を先に決める
机上訓練は、準備の段階で中身がほぼ決まります。高知県の『机上型事業継続訓練マニュアル』(平成26年3月)は、準備を「目的の明確化」から「回答例の作成」までの7つの段階に分けています。ここでは、担当者が先に決めておきたいことを順に整理します。
1. 目的と対象者を決める
最初に、誰に何を確かめてもらう訓練かを、経営層と相談して決めます。同じ机上訓練でも、目的によって作りが変わります。
- 初めての人に、災害のときに何が起きるかを疑似体験してもらう(発生から3日ほどの初動が中心)
- 対策本部のメンバーで、作ったBCPが使えるかを確かめる、または事業を続けるうえでの課題を話し合う(4日目以降の事業継続まで扱う)
想定する災害(地震、水害、感染症など)と、発生する日時(平日の昼か、休日や夜か)も、このときに決めておきます。
2. 準備の係と班を決める
初動だけを扱う訓練なら、総務や人事の担当者が中心になれば準備できます。事業を続ける段階まで扱う場合は、取引先からの求めや重要な業務の流れをシナリオに入れる必要があるため、関係する部署から実務に詳しい人に加わってもらうと進めやすくなります。準備に加わった人は、当日は参加者ではなく、様子を見る係に回る方法もあります。
参加者は班に分けます。話し合いが活発になる人数として、1班5〜6人程度が目安とされています。部署ごとに班を組むと計画の理解を深めやすく、部署を混ぜると全体としての動き方を話し合いやすくなります。
3. 日時と場所を決める
高知県のマニュアルでは、準備期間の目安を、初めての訓練で1か月ほど、事業継続まで扱う訓練で2か月ほどとしています。会場は、実際に災害対策本部を置く予定の部屋にすると、机の配置や電源、ホワイトボードの位置まで確かめられます。
4. 被災状況を、拠点ごと・時間ごとに決める
シナリオの土台として、本社や営業所、倉庫などの拠点ごとに、揺れの強さ、浸水の有無、電気・水道・通信の状況を、1日目、3日目、7日目のように時間を追って決めておきます。全部の欄を細かく決めなくてもかまいませんが、設問に関係するところは決めておくと、話し合いがぶれにくくなります。自治体の被害想定やハザードマップを、ここで使います。
シナリオと設問の作り方
机上訓練のシナリオは、災害が起きてからの出来事を時間の順に並べた「物語」のようなものです。司会が「状況」を示し、続けて「設問」を出し、班で話し合って発表する、という組み立てを繰り返します。
初めての訓練では、状況を1つ示すたびに設問を出す形が分かりやすい方法です。事業継続まで扱う訓練では、状況をいくつか続けて示したあと、ある局面で「対策本部として、今後の方針をどうするか」のような大きな設問を出す形もあります。
立地と業種を入れる
シナリオには、自社の立地と業種を入れると現実味が出ます。浸水するおそれのある場所か、お客様が出入りする店舗や施設があるか、取引先から納期の問い合わせが来る業種か、といった点です。どこの会社にも当てはまる状況だけでは、自社の計画の抜けは見えにくくなります。
記入表の例
当日、班ごとに配る記入表は、次のような形にしておくと、あとで報告書にまとめやすくなります。下は、事務所で働く会社を想定した記入例です。
| 時刻 | 状況(司会が示す) | 設問 | 班の答え | 気付き |
|---|---|---|---|---|
| 発生直後(平日 午前10時) | 強い揺れ。執務室のキャビネットが倒れ、停電した。けが人が1人いる | 最初の10分で、誰が何をするか | 班長が点呼し、近くの2人で応急手当をする | 応急手当をする人が決まっていない |
| 発生から1時間後 | 電話がつながりにくい。鉄道は運転を見合わせている | 社員の安否をどう集めるか。社員を帰すか | 安否は連絡ツールで集める。当面は帰さない | 外出中の社員の一覧が手元にない |
| その日の夕方 | 社員の半数が事務所に残っている。停電は続いている | 今夜、何人が泊まり、何が足りないか | 泊まるのは約20人。水と食料はある | 毛布と携帯トイレの数を誰も知らない |
| 3日目 | 停電が解消した。取引先から納品の見通しを問われた | どの業務から、いつ再開すると答えるか | 出荷を先に再開する | 再開の順番が計画に書かれていない |
設問は、班に何を考えてほしいかを先に決めてから作り、その答えを出すのに必要な状況を前に置きます。泊まる場面のように、備蓄の数や置き場所を確かめられる設問を入れておくと、計画に書いた数字が足りているかも見えてきます。職場の備蓄の考え方は、職場の備蓄は何をどれだけ?携帯トイレと毛布の必要数で扱っています。
回答例と解説を先に作る
訓練を話し合いだけで終わらせないために、設問ごとに回答例か解説を用意しておきます。計画に書いてあることを確かめる設問なら、計画の該当する箇所を示します。正解が一つに決まらない設問なら、設問のねらいと、考えられる対応をいくつか示します。会社の方針にかかわる設問は、経営層と相談して回答例を作るとよいでしょう。
当日の進め方|司会と事務局の役割
当日は、司会が進行し、事務局が資料の配布と記録を受け持ちます。高知県の『机上型事業継続訓練マニュアル』(平成26年3月)が示す流れは、おおむね次のとおりです。
- 訓練の目的と進め方を説明する(シナリオは前もって配らない)
- 司会が状況と設問を示し、事務局が設問の用紙を配る
- 班ごとに話し合いの進め役・記録係・発表する人を決め、時間を区切って話し合う(1問あたり5〜10分ほどが目安)
- 班ごとに発表する(1班3〜5分ほど)
- 司会が回答例や解説を示し、講評する
- 災害対策本部長などが総評を述べる
- 参加者にアンケートを書いてもらう
初めての訓練なら、設問を10問ほど用意して、挨拶から総評まで2時間半ほどで終える例が示されています。講評は、良かった点と、直したほうがよい点に分けて伝えると、参加者が受け止めやすくなります。
司会が気をつけること
- 運営についての質問には答えるが、設問の答えは言わず、参加者が自分で考えるよう促す
- 間違いを恐れずに発言してよいこと、一人が長く話しすぎないことを、最初に伝える
- 話し合いが止まったら考え方のヒントを出し、広がりすぎたら班の進行役にまとめるよう促す
- お客様や取引先が求める時間までに、何をそろえれば業務を続けられるか、という方向に話を向ける
事務局が残すもの
事務局は、班の話し合いを見て回り、計画や訓練の直しにつながりそうな気付きを書き留めます。ホワイトボードや記入表を写真に撮っておくと、記録としても使えます。担当する班を事務局の中で分けておくと、見落としが減ります。
内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)のチェックリストには、参加者が集まれない場合の訓練をしているか、という項目もあります。2回目以降は、「対策本部の担当者が出社できない」という状況を入れてみるのも一つの方法です。
終わったあとの記録|アンケートから報告書、計画の直しまで
机上訓練で大切なのは、終わったあとに気付きを集めて、計画の直しにつなげることです。高知県の『机上型事業継続訓練マニュアル』(平成26年3月)が示す振り返りの手順をもとに、担当者が行うことを順に整理します。
1. アンケートと気付きを集める
アンケートは、その場で書いてもらうだけでなく、提出の期限を決めて時間を置く方法もあります。集めたら、「訓練の進め方についての気付き」と「BCPについての気付き」に分けて整理します。事務局が当日に書き留めた気付きも合わせます。
2. テーマごとに分ける
気付きをテーマごとに分け、同じ内容のものは1つにまとめます。そのとき、何人が同じことを書いたかも残しておくと、どの課題から手を付けるかを決める材料になります。
3. 報告書にまとめ、経営層に報告する
報告書は、参加者の記憶が薄れないうちに作ります。高知県のマニュアルでは、訓練のあと1か月程度を目安にしています。項目は、次の5つが挙げられています。
- 訓練の概要(いつ、どこで、誰が、何のために行ったか)
- 総評(訓練全体の評価と、主な気付き)
- 訓練の進め方の改善点
- BCPの改善点
- 計画を直すための今後の取り組み(課題ごとの対応の方向)
まとめた報告書は経営層に報告し、意見を聞いたうえで承認を得ます。
4. 課題を分けて、計画を直す
見つかった課題は、担当者の判断で直せるものと、設備の購入など経営の判断が要るものに分けます。内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)も、実務的なものは点検・評価を経て直し、経営判断が要る重要なものは経営者による見直しにかける、という分け方を示しています。
どちらの課題も、誰が・いつまでに・何をするかを決めておかないと、次の訓練まで手つかずになりがちです。とくに責任者と期限は、報告書の段階で書き込んでおくとよいでしょう。直したら、その内容で次の訓練を行います。計画を回し続ける仕組みについては、BCPとBCMの違い|作っても回らない理由で扱っています。
初めての机上訓練のチェックリスト
最後に、初めて机上訓練を行うときに確かめておきたい項目をまとめます。
準備
- □ 訓練の目的と対象者を、経営層と決めている
- □ 想定する災害と、発生する日時を決めている
- □ 1班5〜6人程度の班分けを決めている
- □ 拠点ごと・時間ごとの被災状況を決めている
- □ 設問ごとの回答例か解説を用意している
- □ 訓練の目標と、うまくいったかを評価する方法を前もって決めている
当日
- □ シナリオを前もって配っていない
- □ 班ごとに進め役・記録係・発表する人を決めている
- □ 事務局が気付きを記録し、写真を撮っている
- □ アンケートの時間を取るか、提出期限を決めている
終わったあと
- □ 気付きを「訓練」と「BCP」に分けて整理している
- □ 報告書を作り、経営層に報告して承認を得ている
- □ 課題ごとに責任者と期限を決めている
- □ 次の訓練の時期を、年間の予定に入れている
よくある質問
Q. BCPの訓練は、年に何回やればよいですか?
一般の会社のBCPの訓練に、決まった回数はありません。内閣府の『事業継続ガイドライン』(令和5年3月)は、定期的(年次など)に行うことと、人事異動や採用などで人が大きく入れ替わったとき、BCPを見直したときにも行うことを示しています。介護や障害福祉の事業所は、運営の基準で回数が定められています。
Q. BCPの机上訓練とは、どんな訓練ですか?
災害が起きた想定の状況を時間の順に示し、その状況での設問を班ごとに話し合って発表する訓練です。会議室と資料があればでき、計画の抜けや部署ごとの考え方の違いを見つけやすいのが特徴です。実際に体を動かす訓練ではないため、避難や機器の操作は、別の訓練で確かめます。
Q. BCPの訓練のシナリオは、どう作ればよいですか?
拠点ごと・時間ごとの被災状況を先に決め、そのうえで班に考えてほしい設問を決めて、答えに必要な状況を前に並べます。自社の立地(浸水のおそれなど)や業種(来客の有無、取引先からの求めなど)を入れると、自社の計画の抜けが見えやすくなります。
Q. BCPの訓練のあと、報告書には何を書けばよいですか?
訓練の概要、総評、訓練の進め方の改善点、BCPの改善点、今後の取り組みの5つが目安です。高知県の『机上型事業継続訓練マニュアル』(平成26年3月)では、訓練のあと1か月程度を目安にまとめ、経営層に報告して承認を得る流れが示されています。課題ごとに責任者と期限も書いておくと、計画の直しにつながります。
まとめ
BCPの訓練は、計画が実際に使えるかを確かめ、弱いところを見つけるためのものです。一般の会社に決まった回数はありませんが、定期的に行うことを基本に、人が大きく入れ替わったときや計画を直したときにも行います。
初めてなら、机上訓練から始めると取り組みやすくなります。目的と対象者、被災状況を先に決め、設問と回答例を用意し、終わったあとは気付きを報告書にまとめて計画の直しにつなげてください。訓練で見つかった備蓄の不足も、計画を直す材料の一つです。
株式会社LA・PITAでは、会社の人数や拠点に合わせた防災備蓄のご相談を承っています。訓練で足りない品目や数量が見えた場合は、お見積もりのページからご依頼いただけます。
出典
- 内閣府(防災担当)『事業継続ガイドライン -あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-』(令和5年3月)
- 高知県「机上型事業継続訓練マニュアル」、『机上型事業継続訓練マニュアル(フルセット)』(平成26年3月)
